ある一部の人は菜食をすると栄養不足になり、体力が低下したり健康に影響すると考えています。皆さん、私を見て下さい。小さい頃からずっと精進料理で生活してきましたが、こんな大きな体になりました。歴代の高僧を見ると、何十年のもの歳月精進料理を食していましたが、七、八十歳になっても依然若々しく健康でした。
菜食には利点が多いです。一般的に、肉食の人の顔つきは濁っている感じですが、菜食の人の顔はすがすがしいです。仏教では「相由心生」(顔つきは心から生じるもの)と言っています。科学の証明では、人類は動物性蛋白質を多く摂ると、侵略的な性格を備えるようになり、暴力的な傾向になります。菜食者の態度は穏やかで寛容です。普段食べている物が人の性格や気質に確実に影響しています。近年の腸炎、狂牛病、SARS (重症急性呼吸器症候群)、口蹄疫、鳥インフルエンザなどの伝染病の爆発は、全世界に恐慌を引き起しています。人々は汚染した肉を食べるのではないかと不安になっていますが、菜食であれば感染の恐れのある家畜を食べることもありません。
世の中には二種類の動物があります。草食動物、例えば象やラクダ、馬、牛などは持久力があります。馬は一日に千里走り、牛は田を耕し、鳩は一日に千里飛びます。肉食動物、例えばオオカミや虎、豹、ライオンなどはとてもどう猛ですが持久力はあまりありません。ですから中国では「虎は最初の三回の攻撃をするとすぐ疲れてしまう」と言われています。
トライアスロンの世界記録者であるアメリカのスポーツマン、シックスト・リナレスはベジタリアンです。彼は遠泳、自転車、マラソンの世界記録保持者です。「高校生で菜食を始めたとき、父母は私が肉を食べないことにとても悩みました。十四年後の今、両親はようやく菜食の良さを納得しました。」と彼は話しました。
過去にアメリカは、宇宙飛行士を訓練するのに仏教の二つ修行方法を行いました。一つ目は精進料理に慣れることにより忍耐力を養うこと。二つ目は坐禅修行によって定力(心が乱れない力)を培うことでした。その理由は、限られた宇宙船の空間では忍耐力と定力がないと、長時間の飛行による寂しさに耐えられないからです。
イギリスの劇作家ジョージ・バーナード・ショーは完全な菜食でした。彼は生前、何人もの医者から肉を食べた方がいい、そうしないと餓死すると言われました。しかし、彼は九十歳過ぎまで健康に生きました。現代になり、西洋医学界でも肉食を極力減らすようにと言っています。それは、肉類の食品は脂肪とコレステロールが高く、血管が硬化や閉塞しやすくなり、人体に良くないからです。菜食には体内の毒素を排出し、血液をサラサラにしてくれる作用があるので注目されているのです。
第一次世界大戦の時、連合軍は物資を輸入させないために道を封鎖しました。封鎖期間中、デンマーク政府は食糧不足を心配し、国中に食糧を配給することを計画しました。肉類が入ってこなかったので、デンマーク人は穀物と野菜、乳製品だけで生活を維持しましたが、結果、デンマーク人の健康は大きく改善され、また死亡率が低下しました。戦後肉食に戻ると、死亡率はすぐに戦前の数値に戻りました。この結果は、人類は肉類がなくても健康に生きられるということを証明しています。
数年前、アメリカでグレゴリー・スミスという十三歳の天才児のことを報道しました。彼は大学卒業して十八歳になるまでに、四つの博士号を取得する計画をしていました。彼が他の天才児と唯一違っていたのはベジタリアンだったことです。彼は菜食によって頭脳明晰頭を保ち、体も健康でいられたと言っています。また、児童福利の仕事に尽力したので、彼自身もまだ子どもでしたが、ノーベル平和賞に二回指名されました。
仏教は信者に精進料理を食べることを要求してはいませんが、菜食には多くの利点があります。例えば、忍耐力を増し、情緒が安定し、修行の助けになります。佛光山には大勢の若い沙弥(未成年僧)がいますが、近くにある成功大学や師範学院、陸軍士官学校の学生とよくバスケットボールによる親睦競技会をします。バスケットボール場で相手の選手の方を見ると、出場してすぐに息を切らし、背中に汗をびっしょりかき、コーチに選手交代を要求しています。それに反して我らの沙弥は、元気にコートの中を走り回り、交代と言われでも、「交代?まだ大丈夫!」と言っています。その他に、佛光山には千人余りの出家者がいますが、弘法利生のため、朝から晩まで努力し、六時間の睡眠以外の大部分の時間仕事をしています。苦しいとか疲れたという声を聞かないのは、一体どうしてなのでしょうか。私にもこの問題がずっとわかりませんでした。しかし、最近になって精進料理ととても関係があることに気付きました。精進料理は忍耐力と体力を増すのです。
中国では民間に旧暦一日と十五日に精進料理を食べる習慣が広がりましたが、意味がないわけではありません。科学者は人間の情緒は、十五夜の満月の日の方が普段の日よりとても変化しやすいことを発見しました。月齢の一日になると情緒は普段に比べ低迷します。菜食することで心身を調和させ、平静を保つことができます。
その他に、精進料理は坐禅にも役立ち、慈悲の心を養います。精進料理を食べる人は心が清らかで無欲で、性格は柔軟で穏やか、寿命は長目です。菜食は生態環境を維持し、世の中の闘争や虐殺を減らします。所謂「欲知世上刀兵劫,但聽屠門夜半聲」(戦争の原因を知りたければ、夜の屠殺所の声を聞けばよい)ということなのです。
菜食にも欠点があります。それはお腹が空きやすいということです。しかし、お腹が空きやすいというのは消化がよいということで、身体の健康のいい助けになっています。菜食は段々と現代人の生活習慣になってきています。人それぞれ菜食の出発点は違いますが、その観念は正しく、調理の方法が正しければ、身心両方に有益なのです。
菜食は自然の流れによってなるもので、無理してするものではありません。過去に、弘一大師と豊子愷(中国語芸術家)が『護生画集』という本を編集しました。台湾でも再版され続け、多くの人がこの本を読んで、「護生」(生き物を守る)という理由を基に、心に菜食の考え方が起こりました。他人を無理やり菜食にするべきではありません。そうでなければ仏教信仰だけでなく、精進料理にも反感を持ってしまいます。信仰を持った後は、修行を通してゆっくり精進料理のご利益も理解でき、自然に精進料理を食べるようになります。
(普門学報33期 当代仏教問題座談記「仏教の「精進料理の問題」に対する考え方」) 作者:星雲大師)